(BBF発売前のため、三輪と米屋が同じクラスになってます。時系列は高校1年だと考えてください。)




「あれ?あそこにいんの、秀次の幼馴染じゃね?」



米屋が窓の外を見ながらそう言った。それを聞いた三輪は、同じように窓の外に目を向ける。そして、校門を抜けていく後ろ姿を捉えると、スッと目を細めた。確かにあれは自分の幼馴染だ。

今は、2限と3限の間の休み時間。こんな時間に、学校を出て行くなんて明らかにおかしい。またか、と三輪は溜息を着いた。
確か、次の授業は数学だったか。三輪は自分の首にマフラーを巻きながら、「適当に言い訳しといてくれ」と米屋に頼んだ。それに何を、とは聞かず「はいはい」と軽く返事する米屋。三輪がこう言った頼み事をしてくるのは、別に今日が初めてではないのだ。

あの真面目な三輪が何度も授業をサボってまでして探しに行く幼馴染み。米屋はあまり面識がないが、廊下で見かけたその子は、三輪よりも深い傷を負っているように見えた。
復讐心を燃やすこともせず、もうこの世に何の思いも抱いていないような、全てどうでも良いと諦めてしまったような、そんな目をしていた。

米屋は三輪の後ろ姿を眺めながら「秀次もだけど、あの子も相当狂ってるな。」と苦笑を浮かべる。すると、ちょうどよく予鈴のチャイムが鳴ったので、米屋は三輪から目を反らし教室の方へ足を向けた。




死にたがりな幼馴染02




居心地の悪い学校をこっそり抜け出してきた私は、平日で人の少ない道をフラフラと歩く。この時間に制服姿で出歩けば、多少は目立ってしまうが致し方ない。私は、出来るだけ人気のない道を選択して、目的の場所へと向かった。

勿論、家に帰るわけではない。そもそも、あんな仮住まいを帰るべき家だと思ったことは一度もなかった。だって私が帰るべき本当の家は、あの日近界民に壊されてしまって、もう一生元に戻ることなんてないんだから。

目を閉じると、瞼の裏に浮かんでくるのはあの悲惨な光景と、大好きだった家族や友人の笑顔だ。…待ってて、私も今からそっちへ行くよ。
何度も死を覚悟した私は、もう命をたつことに不安も恐怖も感じなくなっていた。


……そろそろ放棄区域だろうか。人の気配を全く感じとれなくなった。誰もいない静まった空間は、まるで今の私の心を表しているようで、途方もない空虚感に襲われる。

そのおかげで、近づいてきた一人の気配は嫌でも敏感に感じ取ることが出来た。ああ、今日も私は死ねないのか。
そう思ったと同時に、後ろから声をかけられた。



「何処へ行くつもりだ。」



そんなこと、わかってるくせに。振り向くと、そこには予想通り幼馴染みが立っていた。せっかく彼にバレないよう、休み時間中こっそり抜け出してきたというのに。彼はどうしても私が死ぬことを阻止したいらしい。

「秀次には関係無いでしょ」と睨みつけるが、秀次は何も聞こえていないかのように私の腕を掴んで、行き先とは逆方向へ引っ張った。どうやら学校へ戻るつもりのようだ。……いやだ。あんな呑気で幸せそうな、平和ボケした空間に居たくない。私は頑なにそれを拒んだ。



「いい加減にしてよ。一人になるのが嫌だなんて…そんな秀次の我儘で、私を縛り付けないで!」

「………。」

「秀次だって、こんな世界で生きていくのはつらいでしょ?なら、一緒に近界民に殺されようよ!」

「……憎き近界民に殺されるくらいなら、俺は自ら命をたつ。」

「、だったら…!」

「だが、俺はまだ死ねない。近界民に復讐するまでは。」

  

秀次はそう言うと、私の頬を両手で包んだ。そして、無理やり彼の方へ顔を向けさせられる。秀次の目に、怯えた顔の自分が映りこんだ。彼は真剣な表情のまま口を開く。



「俺が復讐を遂げるまで、なまえは俺の傍にいてほしい。」

「………っなんで、」

「お前まで失ったら俺は……きっと、壊れてしまう。壊れて、狂って、全てを壊してしまうかもしれない。もう、俺にはお前だけなんだ…。」



秀次は私の頬から手を離すと、今度は私の背中に手を回した。私は「っ、ちょっと…!」と慌ててもがくが、秀次は離すどころか、さらに強く抱きしめてくる。突発的な彼の行動に、私は頬をほんのり赤らめた。……なんなの、この状況。もしかして今のって告白だった?

顔が熱いのは寒いからだと自分に言い聞かせ、とにかく彼の腕から抜けだそうとジタバタする。暫くそれを続けていたが、彼の鼻を啜る音が聞こえて、私はパッと抵抗するのをやめた。



(………え。秀次、もしかして泣いてる?)



思えば、秀次とは幼い頃からずっと一緒にいたけど、こんな弱々しい彼はあまり見たことがなかった。そういえば、目の隈も酷い。……ボーダーで辛いことでもあったんだろうか。それとも、昔を思い出す何かがあったんだろうか。

とにかく、今はこんなつらそうな秀次を突き放すことなんてできなくて、私は彼の背中にそっと手を回した。



「…もう、泣かないでよ。」

「……う、っ…」

「わかったから。今日は、警戒区域に行かない。……だから、そんな顔しないで。」



私がそう言うと、「っ、見るな…!」と秀次のマフラーに顔を押し付けられる。少々息苦しいが、私も人の温もりをこんなに感じたのは久々で、どうしてか貰い泣きしそうになった。



秀次の心の内には近界民への復讐心が宿っている。私にはそれがない。それは、自分にはどうにもならないと諦めているか、そうでないかの違いだった。

秀次はすごい。近界民を駆除するために、ボーダーへ入りA級にまで昇りつめた。私には、近界民への強い憎しみがあっても、きっとそこまでできない。
復讐するために生きることを望む秀次が、私とは遠くかけ離れた存在のように思えた。



「私も秀次みたいに強かったら、きっと近界民に殺されたいだなんて思わなかったんだろうな。」



私は、ポツリとそう呟いた。


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